はじめに、この作品は2024年に公開された映画で、監督:塚原あゆ子さん、脚本:野木亜紀子さんのコンビの作品です。私はこの2人がタッグを組む作品が好きです。
そしてこの映画は、この2人の作品のアンナチュラルやMIU404の世界線と交差している作品なので、それぞれの登場人物が現れたとき、キター!!となり、色んな視点から楽しめます。
社会の問題に切り込む作品が多いですが、ラストマイルでも現代の
流通業界での労働問題が映し出されていました。
あらすじはこちら。
ある日、届いた荷物は爆弾だった――日本中を震撼させる4日間。
11月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界的なショッピングサイト最大手から配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。
やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく—―。関東の4分の3を担う巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?
決して止めることのできない現代社会の生命線 ―世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?
それぞれの謎が解き明かされるとき、この世界の隠された真の姿が浮かび上がる。
今回は、1回観ただけだと、あれどういうことだっけ?となった箇所や、自分の中で少し掘り下げて考えたい箇所について気になった点をまとめました。(ネタバレめっちゃありです。)
ロッカーの数字の意味は?
「2.7m/s→0 70kg」
山崎佑(中村倫也)がロッカーに残した言葉で、このあとベルトコンベアに飛び降り、結果として植物状態となってしまいました。
映画の流れから以下のように解釈しました。
・「2.7m/s」はベルトコンベアの速度
・「70kg」はベルトコンベアの耐久重量
・「→0」は、ベルトコンベアの速度が0、物流システムの稼働率0になるという意?
つまり、自分(体重約70kg)が飛び降りてその衝撃と共にベルトコンベアに力がかかれば、ベルトコンベアを止めることが出来、物流の流れを止めて達成率を0にできるという意図の計算式を表していました。
達成率のデータは色んな場面で、映し出されていましたね。

「すべてはお客様のために」の名目のための売上重視のブラックフライデー、そのために決してとまらない物流と過酷な労働、立ち代わり入れ替わりのセンター長の座(派遣に対して少ない社員)。
利便性の追求のために、機械化され、とまることのないベルトコンベアー。そのシステム・社会で本当に良いのか?
働くなかで色んな思いを募らせた結果、山崎佑はベルトコンベアーを止めるための行動にでたのだと思います。
しかし、結果的に山崎の飛び降り現場に立ち会った五十嵐道元(ディーン・フジオカ)は山崎の身体をベルトコンベアーからすぐさま退かし、稼働率を正常にもどします。山崎の身をもっての行動でもその流れをとめることはできず、絶望しました。
このシーンは、利便性・効率・常時稼働が追及されたシステムの中では、人の命さえも軽く扱われてしまうことも描いていたと思います。
これは、前に書いた「スマートな悪」について再考させられました。
また、のちの山崎の言葉「馬鹿なことをした」は、ここまでしても止まることがなかった虚しさ・後悔から発した言葉でしょうか・・?
配達員の息子・亘が洗濯機に爆発物を突っ込んだ意味
最後の方のシーンで、お母さんへのプレゼントを心待ちにしていた家族のもとに、爆発物が届いてしまいます。
配達員の親子である佐野昭(火野正平)と佐野亘(宇野祥平)が急いで部屋に向かって、息子・亘が爆発寸前に危機一髪で洗濯機にその荷物をぶち込んでスイッチを入れ水を流したことで、なんとか爆発せずに済んだ描写がありました。
その時に亘が「良い製品使ってますね」と言う会話があります。
爆発物が、洗濯機の中でバチバチと暴れていました。
ここで、なんで無事だったんだ?と思いましたが、見返すと伏線がありました。
冒頭20分くらい、父が息子を他の配達員の男性に紹介するときに、以下のような会話がありました。
男性:「ヒノモトデンキの支配人だったよね?ドラム式洗濯機好きだったよー」
亘:「うちのは他社さんより耐熱温度を高く設計していたんです。それでいて耐久性もある。その分コストがあがって安いのに負けて・・」
亘は日本製でしっかりした質の高い洗濯機を扱っていたことに誇りをもっていた様子が伺えます。
そして最後のシーン、その耐熱性によって、爆発物が洗濯機の中でなんとか収まった?と解釈しました。質より安価なものが売れる時代、質の良い商品を作っていたヒノモトデンキの製品がこの家族を救いました。
一方、そんな良い製品を作っていた会社はもう倒産してしまっている皮肉を表しているなと思いました。
デリファスのような大きな資本のもとで、下請けとしての羊急便や淘汰されていくヒノモトデンキのような小さな会社の存在を考えさせられます。
筧まりかは、他人を巻き込む爆破という行為をする必要があったのか?
筧まりか(仁村 紗和)は、婚約者であった山崎が寝たきり状態になってしまい、その復讐をしようと考えていました。
山崎がセンター長を務めていたころ、「ブラックフライデーが怖い」と聞いていたことから、デリファスに責任の所在があるかもしれないと考えていました。
ここで、まりかがどれくらい山崎の気持ちを分かって実行に移したのかは私にはわかりませんでした。(エレナも、「彼女に伝えなきゃ」の主旨の発言をロッカーを見た時に言っていたので。)山崎の飛び降りの理由が曖昧なままの場合、こんな他人を巻き込むテロ行為まで行うものなのか?とは思いました。
しかし以下のような流れではあったので、まりかの中の信念をもって起こしたことと推測します。
かつて、まりかがNYまで行ってエレナ(満島ひかり)に会いに行き、そのときにこんな会話をしていました。
まりか:「彼がああなったのが私のせいなら私は罪を贖(あがな)います。」
エレナ:「贖なうってどうやって?そうは言っても無理じゃない?」
まりか:「だったらもし私のせいじゃなかったら世界は罪を贖ってくれるんですか?」
結果として山崎が飛び降りたのは、まりかに原因があるわけではありませんでした。
まりかは爆弾テロによって、このシステムの仕組みのいびつさや、山崎がこうなったことの贖罪を知らぬ他人に果たさせようとしたのでしょうか。
理由として、そもそもブラックフライデーがあるのは、人々に止まらない購買意欲があり、物流の流れがとまることがないのも、少しでも早く受け取りたいなど、それを求める欲求がみんなにあるからです。
このシステムを作り出しているのに無関係な人はいない、だから、世界が罪を贖えと思ったのかもしれません。そして、自分もそのテロ行為の罪を自爆という形で贖ったのかもしれません。
この制作陣の作品をみたあとは、なんか色々と考えることがとまらないので、やはりすごい作品を作られるなぁと思いました。
別作品も含め、何度も見直してみたい気持ちにさせられました。
編集者:Miki Kohinata
学生時代、将来独立することを決めエンジニアの道へ。就職したIT企業で藤本と運命的に出会いKOHIMOTO設立。目指すのは人の心に寄り添えるエンジニア。人生のテーマソングはWeekend by 5lack。