前回の記事では、合理的配慮の義務化の話題からウェブアクセシビリティの概要について解説しました。
今回は、ウェブアクセシビリティのガイドラインや対応フローに関してご紹介します。
ウェブアクセシビリティのガイドラインについて
ウェブアクセシビリティの対応を行う際には、主にガイドラインを使用します。
ウェブアクセシビリティに対応する=ガイドラインに準拠し、その基準を達成することとなります。
続いて、各ガイドラインについて紹介します。
WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)
世界的に最も代表的なウェブアクセシビリティに関するガイドラインです。
Web Content Accessibility Guidelines、略称WCAGと呼ばれ、W3C(World Wide Web Consortium)という団体が作成しているガイドラインです。
1999年に1.0、2008年に2.0が勧告され、2023年11月現在は2.2というバージョンが勧告されています。
※WCAG3.0の草案が、2024年5月に更新されました。WCAG 3.0 (W3C Working Draft 2024年5月16日版)
https://accessible-usable.net/2024/05/entry_240531.html
ISO/IEC40500:2012
WCAG 2.0は、2012年10月に国際規格「ISO/IEC 40500:2012」として承認されました。
なお、ISO/IEC 40500:2012は、WCAG 2.2の内容で更新されることが周知されています。
JIS X 8341-3
JIS X 8341-3:2016は、2022年11月時点で最新のウェブアクセシビリティに関するJIS規格です。
JIS X 8341-3は、正式名称を「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」と言います。
2004年にJIS X 8341-3:2004が発行され、2010年にWCAG 2.0の内容を取り込む形で大きく改定。2016年には、WCAG 2.0とISO/IEC40500:2012と全く同一内容の一致規格として改定されました。それがJIS X 8341-3:2016という規格です。
そのため、WCAG 2.0とISO/IEC40500:2012とJISX8341-3:2016は同じ内容となっています。
JIS規格に対応したウェブサイト作成する
政府や国内の大企業のWebサイトはJIS規格に準拠しているケースが多く見られます。そのため今回
はJIS X 8341-3:2016への対応について解説します。
1. 対応する度合いを決める
JIS X 8341-3:2016への対応度を示す方法には、「準拠」「一部準拠」「配慮」の3つの方法があります。
これはJIS規格に基づいた表記方法ではなく、WAIC*が独自に定義した表記方法です。
*WAIC=ウェブアクセシビリティ基盤委員会(Web Accessibility Infrastructure Committee)
- 準拠:基準を全て満たしているもの
- 一部準拠:達成基準の一部を満たしているもの
- 配慮:試験の実施と公開の有無は問わない
2. ウェブアクセシビリティ方針を策定する
JIS X 8341-3:2016の対応度を表記するためには、ウェブアクセシビリティ方針を作成しなければならず、大きく2つのことを決める必要があります。
対象となる範囲を決める
ウェブサイトのどこを対象にするか、対応する範囲を決めます。
ドメイン名かサブドメイン名を単位とするのが一般的です。
目標とする適合レベルを決める
JIS X 8341-3:2016では、適合レベルが「A・AA・AAA」の3つに分けられています。どのレベルに適合するかを選択します。
デジタル庁や他国の法律などでは、AAに適合することを推奨しています。
3. ウェブアクセシビリティの試験を行う
ウェブアクセシビリティ方針が決まれば、試験を行って対応度を確認します。
JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに準拠していることを試験で確認するためには、適合レベルAの達成基準25個と適合レベルAAの達成基準13個の中から、開発したサイトやサービスで適用対象となる達成基準を選び、それぞれの達成基準が適合しているかをひとつひとつ確認します。
【各適合レベルについて】
- A
レベルAは、25項目あります。ウェブアクセシビリティを確保するために最低限のラインになります。
- AA
レベルAAは、13項目あります。このレベルを達成するとユーザーが支援技術なしでも、ウェブサイトにアクセスできるようになるものが多くあります。
- AAA
レベルAAAは23項目あります。内容、機能によっては難しい場合もあるので、サイト全体の一般ポリシーとしてはレベルAAAの達成を目標としなくても良いとされています。
デジタル庁では、それぞれの達成基準に適合しているか直接確認するよりも、
達成基準に含まれる「達成方法」と「失敗例」を使って判断するという方法を推奨しています。それぞれの達成方法と失敗例については、WCAG 2.0解説書で確認できます。
また、WAICが公開しているJIS X 8341-3:2016試験実施ガイドラインからダウンロードできるExcelファイル
「実装チェックリスト」を使って確認すると効率的に作業を進められます。
上記のような作業を、Webサイトの対象となるページに対して行うことがJISに基づくウェブアクセシビリティの試験となります。
4. ウェブアクセシビリティの試験結果を公開する
適合レベルに一部準拠の場合でも、ウェブアクセシビリティの試験結果に関して、定期的に公開している企業もあります。
ウェブアクセシビリティ方針についても分かりやすくまとめてあり、参考となるページになっています。
ウェブアクセシビリティの正式な試験には、膨大な時間がかかります。
オープンソースで公開しているチェックツールなども存在しますが、確認できるのは達成基準の2割から3割程度にとどまります。そのため試験には、
必ず人の目視による確認と、キーボードのみの操作・スクリーンリーダーなどの支援技術を用いた確認が必要となります。
今後ウェブアクセシビリティ向上を目指すサイトを制作する際は、開発段階(「情報設計時」「デザインテンプレート完成時」「結合テスト時」)で試験を組み込むと効率的に進めることができます。
次回は、ウェブアクセシビリティでの具体的な対応事項について、図を用いながらご紹介したいと思います。
tacot
大学卒業後、デジタルマーケティング会社に入社しメディア広告営業やウェブサイトのディレクションを担当。前職の経験を活かしウェブディレクターをしながらWeb制作業界にまつわるコンテンツを執筆中。